ピーチク君

あれはたしか小5か小6だった。
クラスメイトに恥ずかしがりやで、はにかみやさんで、身長の小さな男子がいた。あだ名を覚えているが、ここでは全く違うピーチク君としよう。
ある日、ピーチク君が宿題をやるのを忘れてきた。
当時、我々のクラス担任は、熟練のおばちゃん先生で、怒ると結構怖い部類の方だった。

熟練先生は、ピーチク君をみんなの前で叱った。
そして、「あなたは今日の朝、何をしていたのか?」とピーチク君に問うた。

ピーチク君は、どもりながら小さな声で、
「ア、アニメのビ、ビデオを見ていました。」
教室は静まりかえりながらもざわめいた雰囲気に包まれた。

私はその時に思ったことを鮮明に覚えている。

まず1つめ、
朝からアニメのビデオ見るなんて何時に起きてんだよ!ピーチク君!
私が朝見るものといったら、かるべしんいちのメディア見たもん勝ちぐらいで、ご飯を食べてすぐ出発!という生活だったため、朝からのんびりアニメのビデオをみられるピーチク君のライフスタイルに驚愕した。

そして2つめ、
たとえビデオを見たとしても、今、それ正直に言わなくていいんじゃない!?ピーチク君!
私だったら、みんなの前でしかられているとい う状況のもとで、激おこぷんぷんしている熟練先生のマグマに、さらに油をそそぐであろうパワーワード「アニメのビデオ」など絶対に口にしない。ピーチク君の素直さに度肝を抜かれるとともに、あんたちょっと、もうちょっと別のことを答えなよとたしなめる気持ちもあった。

クラスのざわめきは、おそらく、大方の人が私と同じ以上2点を思い抱き、発生したのだと思われる。

この情景は、今までよく思い出すことがあった。自分でもなぜこの話をこんなに覚えているのか、そして思い出すのか、ずっと不思議だった。

それが先日、お風呂に入りながらふと気付いた。

私には、あの時のピーチク君の素直さがずっとまぶしかったのだ。

あの時に、
先回りしていろいろ考えるのでなく、
本当のことを素直に白状した、ピーチク君。
瞬間的にみれば、
それが要領悪く思えるかもしれない。
しかし、素直さがピーチク君よりも欠如した私には絶対にできない芸当であり、
自分はもう取り戻すことができないイノセンスを持ったピーチク君に、ややセンチメンタルが混じった羨望の眼差しをずっと心で送り続けていたのだ。

素直であること、
これは一度手放してしまうと、
おそらくそう簡単には手に入らない。

だから、素直な人は素敵だと思う。
素直であることで損をしそうな人を見つけたら、味方でいてあげたいなと思う。

まぁ、宿題はやった方がいいと思うが。